メキシコ 2027年度税制改正案を議会へ提出
法人所得税を中心とした主要改正と企業への影響
2026 年 9 月 8 日、メキシコ連邦政府は 2027 年度の経済パッケージ(Paquete Económico 2027)を連邦議会へ提出しました。今回の経済パッケージには、2027 年度歳入法案、所得税法(LISR)改正案、連邦権利法(LFD)改正案、2027 年度予算案等が含まれています。なお、現時点では議会審議中の「改正案」であり、最終的な法律ではありません。今後の議会審議によって内容が修正される可能性があります。
メキシコ政府は、2027 年度の財政政策について、新たな税の創設や名目税率の引上げを行うのではなく、課税ベースの強化、脱税・租税回避への対応、損金算入制度の適正化等によって税収を増加させる方針を示しています。特に所得税については、損金、繰越欠損金、支払利息等を利用して課税所得が大幅に減少することを抑制し、ISR の課税ベースを確保することが重要な政策目的とされています。連邦政府は 2027 年度について、税収全体の増加に加え、ISR についても 2026 年着地見込み比で実質増収を見込んでいます。
したがって今回の改正は、「税率そのものを引き上げるのではなく、税務上控除できる金額やタイミングを制限することで、課税ベースを広げ、税収を確保する」という性格が強い改正案と考えられます。
具体的な 2027 年度税制改正案
1. 年間課税収入 5,000 万ペソ超の法人に対する新たな損金算入制限
今回の改正案で、一般企業に最も大きな影響を与える可能性がある項目の一つです。新たに LISR第 78-A 条から 78-F 条を設け、原則として、年間の課税収入(Ingresos acumulables)が 5,000万ペソを超え、税務上の利益(Utilidad fiscal)が発生するメキシコ法人について、当年度に損金算入できる金額に制限を設けることが提案されています。
a) 損金額が課税収入の 96.67%以下の場合には、損金額の 99%までしか当年度に控除することができない。
b) 損金額が課税収入の 96.67%を超える場合には、原則として課税収入の 96.67%が当年度の損金算入上限となる。
例えば、課税収入が 1 億ペソ、損金が 9,800 万ペソである場合、通常であれば課税所得は 200 万ペソですが、新制度では損金上限が 9,667 万ペソとなるため、税務上は 333 万ペソの利益が残ることになります。
したがって、利益率の低い企業については、実際の事業利益以上に課税所得が発生する可能性があります。尚、この制度によって当年度に控除できなかった損金については消滅するわけではなく、原則としてその後 20 年間にわたり繰り越して控除することが可能とされています。
尚、一定のマキラドーラ企業、一定の投資優遇制度を利用する企業、破産手続中の企業のほか、原則として RFC 登録から 5 事業年度未満の企業等については、新制度の対象外とすることが提案されています。そのため、すべての 5,000 万ペソ超の企業に機械的に適用されるわけではなく、各企業について適用対象かどうかを個別に確認する必要があります。
2. 繰越欠損金の使用を当年度税務利益の 50%に制限
年間課税収入 5,000 万ペソ超の対象法人については、過年度から繰り越している税務上の欠損金(Pérdidas fiscales)の使用についても制限が提案されおり、具体的には、当年度の課税所得について、繰越欠損金を利用して相殺できる金額を 50%までに制限とするように提案されています。
A:当年度課税所得 1,000 万ペソ
B:繰越欠損金 3,000 万ペソ
例えば上記のケースであったとしても、2027 年度に適用できる繰越欠損金(A)は 500 万ペソまでとなり、残る 500 万ペソについて ISR が発生することになります。これまでは十分な繰越欠損金を有している企業について、「当面 ISR は発生しない」という税務上の想定を行うケースもありましたが、本改正が成立した場合、その前提が大きく変わる可能性があります。なお、新制度によって利用できなかった欠損金については、20 年間の繰越が認められる予定です。
さらに重要なのは、この 50%制限が年次申告だけではなく、月次法人税申告(Pagos Provisionales)にも適用される予定である点です。したがって、今回の改正は単に年度末の法人税額を増加させるだけではなく、2027 年度中の企業のキャッシュフローにも直接影響する可能性があります。
3. 純支払利息の損金算入限度を 30%から 20%へ引下げ
LISR 第 28 条 XXXII に規定される純支払利息(Intereses netos)の損金算入制限についても、厳格化が提案されています。現行制度では、一定の純支払利息について、調整後税務利益(Utilidad fiscal ajustada)の 30%までを原則として損金算入限度としています。今回の改正案では、この割合を 30%から 20%へ引き下げることが提案されています。
例えば調整後課税所得が 1 億ペソであれば、現行制度が課税所得の 30%である 3,000 万ペソが損金算入限度額だったものが、改正案の場合は 20%の 2,000 万ペソが限度額となります。
日本本社や海外グループ会社から多額の借入を行っている企業、銀行借入を含めて借入金額が大きい企業、また利益率の低い企業では、損金不算入となる利息額が増加する可能性があります。なお、当年度に損金算入できなかった純支払利息については、現行制度と同様に一定の要件のもとで10 年間繰り越して控除することが可能とされています。
4. 海外への支払に関する損金算入および源泉徴収時期の変更
今回の改正案では、本社などの海外への支払について、原則として、実際に対価を支払い、かつ必要となる源泉所得税を納付した年度に損金算入することが提案されています。
また、非居住者に対する源泉徴収についても、
- 支払義務が発生した時点(Exigibilidad)
- 費用が発生した時点(Devengo)
- 実際に支払った時点(Pago)
のうち、最も早い時点で源泉税を納付する方向の改正が提案されています。
これは、例えば日本本社への、ロイヤルティ、技術支援料、利息、マネージメントフィー、各種サービスフィー等に影響する可能性があります。従来のように「まだ海外へ送金していないため源泉税もまだ納付しない」という管理が認められないケースが生じる可能性があり、年度末の未払費用計上を含めて実務の再確認が必要になります。
5. 前払費用・複数年度契約の損金算入時期
サービス提供や資産の使用等に関して前払を行った場合の損金算入時期についても変更が提案されており、前払を行った時点ではなく、実際にサービスを受けた年度、または使用期間が経過した年度に損金算入することになります。また、サービス契約等が複数年度にまたがる場合には、それぞれの年度に対応する部分のみを損金算入することになります。保守費用、ソフトウェアライセンス費用について、今後契約内容と税務処理を確認する必要があります。
6. 債務の資本化(DES)および CUCA の取扱い変更
日本本社からメキシコ子会社への借入を資本金へ振り替える、いわゆる DES についても重要な変更が提案されています。未払の発生利息、および当該債務に関連する IVA については、資本化したとしても原則として CUCA(Cuenta de Capital de Aportación)に含めないことが提案されています(注 1)。また、売掛金、債権、債権譲渡等を現物出資した場合についても、実際に回収・実現した金額についてのみ CUCA へ反映する制度となる予定です。将来的な、資本減少、清算、株式売却、配当・グループ再編等にも影響するため、DES を予定している企業については事前検討が必要です。
(注 1:CUCA は、将来株主へ資金を返還する際に、その金額が利益配当ではなく、税務上「出資元本の返還」として認められる範囲を管理
する税務上の資本金です。今回の改正案では、債務を資本化(DES)する場合、未払利息および当該債務に対応する IVA を CUCA に算入しないことが提案されており、これにより CUCA 残高が従来より小さくなる可能性があり、将来、減資・資本払戻し・清算等を行う際に、
CUCA を超える部分が税務上「利益の分配」とみなされ、追加の税負担が生じる可能性があります。)
7. 新品固定資産に対する投資促進措置
一方、今回の改正案には企業にとって有利となる措置も含まれていおり、一定の新品固定資産について即時償却(Deducción inmediata)を認める制度が提案されています。また、一定の地域・事業については、人材教育、技術革新、特許等に関連する追加控除制度も予定されています。
最後に
今回の 2027 年度税制改正案の特徴は、法人税率そのものを変更するのではなく、課税所得の計算方法を厳格化することによって ISR の徴収を強化する点にあります。今回の改正で上記 1 番から 5番によって一般企業の税負担およびキャッシュフローに大きく影響する可能性があります。
尚、今回の改正案が成立した場合、特に年間課税収入 5,000 万ペソを超える企業については、2027 年度の法人所得税負担が従来の想定から大きく変化する可能性があります。そのため、対象となる可能性のある企業については、本年度中に、2027 年度の課税所得・繰越欠損金・支払利息・海外関連会社への支払・設備投資等を基にした税額およびキャッシュフローのシミュレーションを行うことが重要になると考えられます。
尚、本稿は 2026 年 9 月現在公表された 2027 年度税制改正案に基づくものであり、今後の議会審議により内容が変更される可能性があることを最後に重ねて申し添えます。
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